先日の未来フェスを見て

本年9月 ニューヨークで「国連未来サミット」――〈インタビュー〉 マーヘル・ナセル氏(国連グロー

本年9月 ニューヨークで「国連未来サミット」――〈インタビュー〉 マーヘル・ナセル氏(国連グローバル・コミュニケーション局アウトリーチ部長)2024年1月1日

  • 持続可能な世界へ 若者の声を結集して

 本年9月にニューヨークの国連本部で行われる「国連未来サミット」――。国連グローバル・コミュニケーション局アウトリーチ部のマーヘル・ナセル部長に、「国連未来サミット」の意義や「未来アクションフェス」と青年世代への期待などについてインタビューしました(聞き手=大宮将之、村上進)。

 ――国連未来サミットが行われる意義や背景を教えてください。

 
 2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、達成期限の2030年まで折り返しを過ぎました。この間、新型コロナウイルス感染症の大流行などにより、SDGsの進捗が大きく妨げられた事実があります。
 
 未来サミットは、サッカーの試合に例えると、前半戦を終えて後半戦に臨む前に、コーチと選手が集まる「ハーフタイム」といえるでしょう。SDGsの達成というゴールに向かって、前半戦は厳しい結果に終わった。しかし人類の生存のためにも、絶対に諦めるわけにはいかない――その意識に立って戦略を練り直すとともに、コーチと選手間、また選手同士の団結を強めることが不可欠です。つまり「多国間主義」(それぞれの課題に対して多数の国家が協力して取り組むこと)への信頼、国連の加盟国同士の信頼を回復させるのです。
 
 開催の背景には、2021年にアントニオ・グテーレス国連事務総長が発表した「私たちの共通の課題」と題するビジョンがあります。全世界の約150万人が参加した「未来の優先課題」や「行動のアイデア」に関する調査の結果とともに、その後に行われた協議の内容を踏まえたものです。この中で強調された大きな柱の一つが「多国間主義」の再活性化でした。
 
 気候危機に“関係のない国”は一つもありません。誰もが“共通の危機”に直面しているのです。むしろ気候変動の影響は、経済的に富める国よりも貧しい国、社会的に弱い立場に置かれた人々に対して、最も深刻に表れます。こうした不平等は、コロナ禍における「ワクチンの供給」の格差にも見られました。国家間における不平等や格差は、新たな紛争や難民の増加などによって、ますます広がり、また複雑化しています。
 
 国連未来サミットは、それぞれの加盟国が「国家の代表」としてだけではなく「人類全体の代表」として集い、未来に向けて語り合う場としていきたいのです。

 ――グテーレス事務総長が発表したビジョンでは「若者を“議論の場”“交渉の場”に」との点も柱の一つに据えられていますね。

 
 私たち大人の世代が見通せるのは、長くても20年先でしょう。しかし若者は、もっと先の未来を見通している。今を生きる若者の未来は、どうなるのか。さらには、これから生まれてくる子どもたちは、どんな時代を生きるのか。その課題意識を最も持っている青年たちが“議論の場”“交渉の場”の中心に入ることが、よりよい未来をつくる力となります。
 
 SNSなどを通して広くつながっている世代でもあり、大変に大きな可能性を秘めているといえるでしょう。もはや、どの国においても、政治・経済・教育といったあらゆる分野で、青年たちの声を無視することはできません。
 
 国連は2012年、全世界の若者から集めた意見を初めて中核に据えた「世界ユース白書」を発表しました。翌13年には国連のユース担当特使が創設・任命されています。これには私も携わりました。このユース担当特使は、各国の青年世代の声を国連に届ける役割を担ってきたのです。
 
 そして昨年には、国連ユース・オフィスが開設されました(※)。国連の通常予算で運営される常設の機関です。青年が主役となって世界の問題解決に取り組む流れが、一段と強くなることは間違いありません。
 
 本年5月にケニア・ナイロビで国連と市民社会との会議が開催されます。市民社会、そして若者の声を集めるこの会議で採択される宣言が、9月の国連未来サミットに反映されていくことでしょう。

 ――3月に日本の国立競技場で開催される「未来アクションフェス」を通して集まった青年たちの声が、ナイロビで行われる会議にも届けられると聞きました。

 
 未来アクションフェスは、多彩な青年世代が集まり、若いエネルギーと創造性を発揮する重要な機会となるでしょう。また世界の人々に「今、私たち人類が優先すべきことは何か」とのメッセージを発信する場にもなると思います。
 
 民間企業の調査によると日本における「SDGsの認知率」は91・6%。これは世界でも群を抜いた高さです。その上で、「SDGsを知っていること」と「アクション(行動)を起こしていること」は別のことだといえます。SDGsの達成のためには、法整備ももちろん重要ですが、それと同時に一人一人の「行動変容」が不可欠です。市民社会の声、なかんずく若者の力が重要なのです。
 
 私たち人類には、「Ambition(大志)」が必要です。「Hope(希望)」が必要です。そして「Commitment(責任を持った関わり)」が必要です。未来アクションフェスが、その大きな力につながることを期待しています。

 【略歴】国連システムで35年を超える勤務経験を持つ。ガザ、エルサレム、アンマン、ウィーン、カイロ、ドバイ、ニューヨークで、さまざまな役職を歴任。現在は市民社会や学術界、スポーツ界、広告業界などとの連携を統括し、国連の活動への理解促進に努めている。

 ※池田大作先生は2006年に発表した提言「世界が期待する国連たれ」の中で、「国連全体として、青年に焦点を当てていく体制を整え、青年の積極的な参画の機会を確保していただきたい。その意味からも、世界の青年のために活動を特化した専門機関、もしくは国連事務局における『青年担当局』の設置を」と提案。元国連事務次長のアンワルル・チョウドリ博士は先生との対談の中で、「実に急所を突いたものであり、私は心から賛同します」と語った。